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愛の種

土曜の朝だというのに、その部屋には50人近くも集まって、
しかも殆どが若い女の子、その割には控えめな賑やかさ。
慣れた表情のお姉さん達に引き替え、年少組は緊張気味。
と言うのも、悪戯好きの先輩が「あの先生はキレたら物が
飛んでくるんだよ」などと、某演出家のエピソードみたいな
ウソを吹き込んだせいらしい。そりゃビビるわ。
そんな喧騒がピタリ、と止んだのは、スマートでしなやかな
シルエットでありながら、貫禄にも似たオーラを漂わせた
一人の女性が入ってきた時だった。
「おはようございます!」年長組の挨拶に、慌てて年少組も
続く。そして、整列した46名を見渡した先生「多いな」。
これに「今更、言わないで下さいよ〜」と笑いつつツッコム
小さい年長者。「だって一日しかないんだよ、エラいもんを
引き受けたなー。とか言ってる間に時間無くなるから稽古を
始めるよ!」「宜しくお願いします!!」

稽古の途中で、プロデュサーが覗きに来たが、口癖の「ロック
やな〜」は聞けず。「そういうお前が一番ロックや」って
誰かツッこみ入れてみて欲しいものよのう。
そして、物が飛ぶこともなく無事に稽古が終わったのは、
夜の帳が下り始めた頃。解散になった後、親御さん達と帰宅
する年少組や誘い合って遊びに行く者が帰った後、先生を
囲む『古株』と呼ばれる数名は、感慨深く語り合っている。
「本当に最初にダンスした時は、基本のステップすらまともに
出来なかった貴方達が、今じゃ一日もしないうちにフォーメー
ションまで出来るんだから、大したもんだね」と先生が深く
うなづくと、上京した時からすると、相手を選んで見せるよう
になった人懐っこい笑顔がトレードマークの23才は、「でも
一杯怒られたよねー。凄い悔しくて泣きながら練習したり。
そう考えるとキッズとか凄いと思う。あんなちっちゃいのに
うちらのダンスに付いてきてるし」と感心してみる。
「でもさ」と先生が続ける。「それも貴方達があん時に踏ん
張ったから、負けないで続けてきたから下の子達が居る
訳じゃない?全てはあの時を乗り越えてきたからだよ」と
言い終わると、「お腹空いた。焼肉行くか?」と来たもんだ。
その夜は、色々と語り合ったらしい。